社団方針Concept
会長挨拶
水難は不思議です。海に囲まれ、内陸にもあふれるほどの水がある、このわが国にとって水難は身近です。数多くの悲劇が繰り返されたにもかかわらず、それはこれまで研究対象になりませんでした。研究対象にならなかったため、水難対策は勘と経験に頼る領域に甘んじることになりました。つまり何をすれば水難から命を守ることができるのか、本当のところは誰にもわからなかったのです。
水難現場には溺れている溺者、現場に居合わせたバイスタンダー、そして救助者がいます。溺者は要救助者とも呼ばれます。誰が溺者になるかわからないので、まず国民が全員泳げるようにしようという国民皆泳運動が全国的に展開されました。さらに救助通報システムと救助隊に税金が投じられ、近年水難救助が充実してきました。これで、遊泳中の水難に関してはかなり抑制されたように思います。その一方で、泳ぐつもりがなくて水に落ち、衣服を身にまといながら亡くなる人をどうするかという問題が残されました。そのような場合は実態として、救助者が現場に到着する頃にはすでに溺者は水底に沈んでいることが多いのです。最悪の場合は、バイスタンダーが水にとびこみー緒に命を落とすこともあります。
水難に遭ったらどうすればよいのか、様々な解説がなされました。しっかりとした研究がなされないから、検証もされず妄想に基づいた解説がおこなわれる風潮がありました。昔は正しかったかもしれないが今はまちがっているという解説もありました。ひとりの妄想におどらされることなく、誰もが水難から生還するにはどうしたらよいか、その答えを出すためにはさまざまな分野の専門家が継続的に議論する場が必要です。一般社団法人水難学会はそのために設立されました。
水難学会は水難に関するすべてを扱います。溺者、バイスタンダー、救助者ならびに医療を救命の連鎖でつなぎます。それぞれの役割を明確にするため、現場での検証を重視します。その結果を学術総会等で議論し、考えうる中で最も正しいと言えることを公開し、テキストや講習会により社会に広めます。そのキーワードは、ういてまて。
水難学会では、「水難において溺者が主役である」という立場を貫きます。従って、泳ぎが苦手だという方の参加を歓迎します。ここは救助の技術を高める場ではありません。溺者の技術と救助者の技術をマッチングする場です。泳ぎが苦手であるということも立派な専門ととらえることができます。皆様と一緒に議論できることを楽しみにしています。
令和7年6月14日
―般社団法人水難学会
会長 木 村 隆 彦
令和7年度活動方針
ういてまて から シン・ういてまてへの飛躍
水難学会会員の総力により、ういてまて普及は、順調に進み、社会生活の中での認知度が向上し、わが国の子どもの水難事故死の低減に大きく寄与した。
そこで、「ういてまて」から「シン・ういてまて」の普及に段階を上げることとする。
そのため、水難学会が主催する国内普及部門では、会員のシン・ういてまて教育に注力し、会員が全国各地でシン・ういてまて講習が開催できる支援体制を構築する。
水難学研究活動の推進
学術団体としての水難学会の認知度と使命感を活かし、外部資金を獲得した上で、水難事故調査や農業用水施設の安全技術調査、特定企業等との共同研究を推進する。
水難学会の組織改革について
水難学会が将来に渡り水に親しむ社会の発展に寄与し得る組織であり続けるための基盤づくりに取り組む。
特に災害・救命胴衣をテーマとしたシン・ういてまてを普及するため、積極的な組織改革を進める。