シン・ういてまてShin-UITEMATE
水災害から命を守るために
水難学会は、水災害から命を守るための考え方として、「シン・ういてまて」を推奨しています。
1.シン・ういてまてって、なあに?
津波・洪水を想定した新たな防災教育の模索が始まっています。水が迫り、自宅の2階以上や屋根の上に逃げても逃げ切れない場合、最終手段として浮いて自分の命を守ります。
この時、救命胴衣や緊急浮き具を活用した命を守る手段を水難学会では「シン・ういてまて」と呼んでいます。
2.シン・ういてまては実現場の状況を踏まえて確立されました!
水難学会会員は消防職員が8割を占めています。また、大学や研究機関の研究者、災害医療に関わる医師や看護師、赤十字職員が在籍しています。
そのため、水難学会及び前身の着衣泳研究会が発足(2003年)した当時から、災害現場の知見を取り入れた研究が行われてきました。
図1はシン・ういてまての実技の一つである、ハドルポジションです。体力の比較的ある子供が低学年の子供たちを囲み、手をつなぎながら輪を作って浮いています。このようにすることによって、呼吸を確保することができます。
水の上に集まった人同士ではぐれることなく一か所にかたまることができますし、水面に波があってもハドルの中心に近い人にはその影響が軽減できます。上空からヘリコプターで容易に発見されるため、比較的早期に救助されるという利点もあります。
救命胴衣を着装することによって、浮力が得られますので、様々な実技を水の上で実践することができます。小中学校においては、実技を工夫することによって児童・生徒が楽しく、かつ自分の命を自分で守り抜く実技を身に着けることができます。
3.実技の例
(1)救命胴衣着装
救命胴衣は手軽に着装できますが、図2のようにバックルを締めてからベルトを適切な長さに調整する必要があります。ここは訓練を受けた指導員が適切な装着法を指導しないといけません。救命胴衣が緩んでいると着装している本人が思わぬ怪我をしたり、身体がずり抜けて溺れたりする原因となります。
(2)入水
陸から背中をプールに向けて足からゆっくりと入ります。水底の深さを確認しつつ、救命胴衣の浮力を徐々に体感します。救命胴衣の浮力は強力ですから、入り方を間違えるとその浮力によって思わぬ怪我をします。
慣れてきたら、足から飛び込みます。この時、着水と同時に救命胴衣がずり上がる危険があります。緩んだ救命胴衣が顎にぶつかって怪我をしないように図3のように自分の顎を保護しながら飛び込みます。対衝撃姿勢と言います。 口を一方の手で覆い、他方の手で救命胴衣の肩口を掴んでいる様子がわかります。
(3)背浮き
救命胴衣を着装すると簡単に浮きことができます。ただ、むやみに身体を動かしたりすると安定せずバランスを失いかねません。そのため、「静かに浮く」ことを意識した背浮きの練習をします。
(4)ハドルポジション
背浮きが安定してできるようになったら、ハドルポジションを取ります。ポジションの取り方にはいろいろな種類があります。まるで水に浮いた花のようです。見た目から、この実技を「フラワー」と呼ぶことがあります。
図4はそのうちの一つの実技を示します。お互いの救命胴衣を手でつかみながら輪を作って浮いています。
(5)這い上がり
プールの水面にフロートを浮かべて、その上に這い上がる練習です。フロートの水面からの高さはおおよそ10 cmです。身のこなし方によって、這い上がれる人と這い上がれない人にわかれます。そのため、先に這い上がれた人は這い上がれない人の這い上がりを手伝います。
手伝い方にも正しいやり方があります。這い上がれない人の腕をつかむとフロートが揺れた時に腕を痛めることがあります。そのため、図5のように救命胴衣をつかんで引き上げます。
4.今後の展開
ここで示した実技は、実技そのものの安全確認がすでに終わった一部です。これまで20年以上におよび全国に普及してきた背浮きを中心とする実技「ういてまて」は、安全がしっかり確認された実技からなっています。シン・ういてまてについても同様に安全に教室が進められるように、小さい子供から大人までを対象に多角的に安全確認を行っています。
水難学会では、小中学校で行うことを想定した45分あるいは50分プログラムを策定し、準備が整った所からシン・ういてまて教室を実施します。
また学校ばかりでなく、成人向けの防災教室でも順次実技ができるように準備をしていきます。
水難学会は、いつ来るかわからない津波や洪水などの大規模水災害に備え、自分で自分の命を守り抜くシン・ういてまてを社会に普及していきたいと考えています。