水難事故調査

Contents

水難学会事故調査委員会の活動目的

◎人間の生活環境の周りにある様々な水による発生する水難事故

人間が生活する空間には川や湖、海、雪などが存在し、社会基盤である生活空間の中にもお風呂や水道、下水道、上水槽などがあり、必ず水と関わりを持って生活していますが、そこでは落水や高波、大雪、大雨洪水など様々な危険が潜んでいます。このような事故に遭遇した場合、人間は水の中では呼吸ができないため、水面で呼吸を続けないと溺水してしまうことから、レジャーだけでなく仕事や生活の場など様々な場面においても水難事故が発生しています。このような事故は年間で何件も発生しているのが現状で、水難学会ではこのような事故発生を防止するための活動をおこなっています。

◎事故調査をおこなう理由

ところで事故発生を防止するためには、事故原因を調べるのが効果的な手法の1つです。事故がどのように発生したのかを調べ、その原因を特定することができれば、今後同じ様な事故が発生しなくなる可能性があるからです。

更に、その水に関わる事故原因は、水と人体の力学的な作用が関連することが多いことから、事故調査委員会では、水が人体に及ぼす作用状況を物理的に把握することを目的としています。

事故調査委員会の活動概要

◎現地調査の必要性、現地調査実施の判断

事故が発生した時、原因や事故状況などは、その場に事故原因が分かる専門家がいないことがほとんどであり、場合によっては目撃者がいないこともあり、事故の発生原因や事故時の状況は分からない事が多くあります。それゆえ、事故調査委員会では専門家を現地に派遣し、現地調査を実施して調べることが必要となります。

水難学会事故調査委員会では、数人が溺水するなど力学的に顕著な現象が発生した場合や、水難を考える上で重要と考えられる現象が発生した場合に現地調査を実施しています。

◎現地調査の活動概要、調査後の解析作業

現地調査では、専門家が現場を実際に目で見て確認するとともに、関係者の方から事故時の状況を情報提供していただき、更に地形や流れの様子などの物理的な状況を観測して把握することなどを行っています。

また、調査後にはその情報を用いて数値シミュレーションなどの解析を行い、事故当時の状況を物理的に把握して事故原因を推定します。

◎成果の有効活用

これらから得られた知見は、学術論文やHPで発表するとともに、水難学会内外の様々な講習会や講演会で報告し活用しています。

現地調査や調査後の解析の活動紹介

◎調査前の準備(情報収集、多方面への手配)

現地調査をおこなうには事故の内容によって適した人材の選出が必要となります。水難学では様々な分野の会員が豊富に在籍しており、調査時にはそれらの中から最適な会員が全国から集合します。

このように、全国から集合した調査員が限られた時間で的確な行動ができるように、調査計画はしっかりと考える必要があります。そのためには、まず事故時の状況や現地付近の地形や気象、河川水位、波浪状況、現場付近の衛星画像などできるだけ多くの情報を収集しており、それらを利用して調査時の調査項目策定や調査後の解析をおこなっています。

また、調査日程や調査項目、調査員などが決定した後には、現場を管轄する省庁や関係者へ連絡し、現地での調査実施の申請や事故時の情報などを提供いただいたりします。

これらを通じて、解析に必要な情報をできるだけ多く取得するとともに調査時の作業内容や調査後の解析に取得すべき必要な情報などの精度を向上させつつ準備をおこないます。

◎現地調査実施時の概要

大きく分けて聞き取り調査と観測などの2つの作業をおこないます。

●聞き取り調査
現場で実際に救助活動をおこなった消防士の方や海上保安庁の方に来ていただき、事故時の状況や救助時の状況をお聞きするとともに、具体的な入水場所や発見・救助場所などをお聞きします。
●観測・計測
水深測量機材や流速計、気象計、GPS、ドローンなど現場調査に必要な様々な機材を動員して解析に必要な情報を取得します。また、機材によっては水上オートバイや小型船舶などに装着させて計測します。
これらにより、水深や陸上の地形などの水域の地形や、川や海での水面の状況や水中の流れの状況などの水の力学的な状況を把握します。

◎調査後の解析による事故時の状況把握

調査時における観測・計測結果はあくまで調査時における状況であり、事故時の状況を把握できたわけではありません。

水難学会事故調査委員会では、調査後に解析などを実施して事故時の状況を把握しており、数値シミュレーションをおこなうことが多くあります。

●解析用の地形情報の作成
調査時に取得した測量データや人工衛星画像、ドローン画像をもとに、現地調査時や事故時の数値シミュレーション用の地形データを作成します。
●調査時の状況の数値シミュレーション(調査時の現象を再現、観測所データの比較)
調査時の河川流量や波高などの条件を入力して数値シミュレーションをおこないます。
結果は現地調査時におこなった流量や波高・流況観測結果や付近の観測所のデータと比較して数値シミュレーションの正確さを確認します。
また、調査で取得した現場のデータと、付近の観測所データと比較をして、現場のデータと観測所のデータの差異を確認します。これにより、事故時の記録が残る観測所のデータを用いて現場の事故時の状況を数値的に推算することができるようになります。
●事故時の状況の数値シミュレーション(事故時の現象を再現)
事故時の観測所のデータから河川流量や波高などの入力条件を変更して数値シミュレーションをおこないます。これにより、事故時の現場の

◎事故原因の推定、得られた知見の活用

調査および解析から得られた結果から事故の発生原因を推定します。それにより事故発生防止のために有効な対策を考えます。最終的には水難学会や関係機関で報告をした後に結果を論文などで発表するとともに講習会や講演会で活用します。